般若心経

般若心経は、大乗仏教の根本思想である「空」の教えを説く最も重要な経典の一つです。正式には『般若波羅蜜多心経』といい、わずか266文字(漢訳)という短さながら、仏教の真髄を凝縮した経典として、宗派を超えて広く読誦されています。

般若心経全文

仏説摩訶般若波羅蜜多心経

観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄

舎利子 色不異空 空不異色 色即是空 空即是色 受想行識 亦復如是

舎利子 是諸法空相 不生不滅 不垢不浄 不増不減

是故空中 無色無受想行識 無眼耳鼻舌身意 無色声香味触法 無眼界 乃至無意識界

無無明 亦無無明尽 乃至無老死 亦無老死尽 無苦集滅道 無智亦無得

以無所得故 菩提薩埵 依般若波羅蜜多故 心無罣礙 無罣礙故 無有恐怖 遠離一切顛倒夢想 究竟涅槃

三世諸仏 依般若波羅蜜多故 得阿耨多羅三藐三菩提

故知般若波羅蜜多 是大神呪 是大明呪 是無上呪 是無等等呪 能除一切苦 真実不虚

故説般若波羅蜜多呪 即説呪曰

羯諦羯諦 波羅羯諦 波羅僧羯諦 菩提薩婆訶

般若心経

般若心経の意味

般若心経は、観自在菩薩(観音菩薩)が、深い智慧の完成(般若波羅蜜多)を実践されている時、この世界を構成する五つの要素(五蘊)がすべて実体のない「空」であることを見極められ、一切の苦しみから解放されたことを説いています。

「色不異空 空不異色 色即是空 空即是色」という有名な一節は、物質的な存在(色)と空の関係を示しています。すべての存在は因縁によって成り立っており、固定的な実体はない(空)。しかし、空であるからこそ、様々な存在が現れることができる。この空の理解こそが、苦しみから解放される智慧なのです。

阿字観

阿字観(あじかん)は、真言密教における最も基本的で重要な瞑想法です。梵字の「阿(ア)」の字を観想することで、大日如来と一体となり、本来備わっている仏性を自覚することを目的とします。

阿字の意味

「阿」は梵語(サンスクリット語)の最初の文字であり、すべての音声の根本とされます。大日如来の種子(しゅじ)であり、「本不生(ほんぷしょう)」、つまり本来生まれることも滅することもない真理そのものを象徴しています。

阿字観の実践方法

  1. 入堂
    静かに道場に入り、心を落ち着けます。
  2. 三礼(起居礼)
    仏菩薩に三度礼拝します。
  3. 着座
    半跏座、正座、または結跏趺座で座ります。背筋を伸ばし、自然な姿勢を保ちます。
  4. 浄三業(蓮華合掌)
    身・口・意の三業を清めます。「蓮華は泥中にあっても浄らかなように、この私の身も心も、本来清浄である」と観想します。
  5. 発菩提心(金剛合掌)
    「オン ボウジシッタ ボダハダヤミ」を七返唱え、悟りを求める心を起こします。
  6. 三昧耶戒(金剛合掌)
    「オン サンマヤ サトバン」を七返唱え、「我と仏と衆生は平等である」と誓います。
  7. 五大願(金剛合掌)
    衆生無辺誓願度、福智無辺誓願集、法門無辺誓願学、如来無辺誓願事、菩提無上誓願証の五つの大願を立てます。
  8. 五字明念誦
    「アビラウンケン」(胎蔵生大日如来の真言)を七返唱えます。
  9. 調息(法界定印)
    息を整えます。口から三回程吐き、その後、専ら鼻で呼吸します。
  10. 正観(法界定印)
    阿字の本尊を心に映し、深く観想します。
    熟達者は:拡大法(広観と連観)、影現法(我入入我)、浸透法、転成法、循環法を実践します。
  11. 出定
    深呼吸し、両手で頭から足へ向けて触らずに撫で下ろします。そして、静かに眼を開けます。
  12. 三力加持(金剛合掌)
    「以我功徳力 如来加持力 乃以法界力 普供養而住」と唱え、自分の功徳、如来の加持力、法界の力に感謝します。
  13. 祈念
    感謝と願いを捧げます。
  14. 被甲護身(甲冑印)
    「如来大慈悲の甲冑をいただいて魔障や煩悩から身を護る」と観想します。
  15. 出堂(金剛合掌)
    静かに道場を出ます。

十住心論

『十住心論』は、弘法大師空海が著した真言密教の根本聖典の一つです。人間の心の発展段階を十のレベルに分けて説き、最終的には真言密教の境地(第十住心)へと至る道筋を示しています。

こころの階梯

第一住心:異生羝羊住心(いしょうていようじゅうしん)

牡羊のように本能のままの欲望によって生きている人の心の状態。

第二住心:愚童持斎住心(ぐどうじさいじゅうしん)

子供のように愚かではあるが、人に食事を施そうとする少し道徳心の芽生えのある心の状態。

第三住心:嬰童無畏住心(ようどうむいじゅうしん)

幼児が母に抱かれて畏れなく安心しているように至上の教えである仏教ではないが宗教心を起こして安心している心の状態。

第四住心:唯蘊無我住心(ゆいうんむがじゅうしん)

至上の教えである仏教を志すようにはなるが、まだまだ初歩である、この現象世界の構成を把握するにとどまる心の状態。声聞の境地。

第五住心:抜業因種住心(ばつごういんしゅじゅうしん)

煩悩より生じる苦しみを抜くことができるようになったが、人に教えず自分ひとりで甘んじている心の状態。縁覚の境地。

第六住心:他縁大乗住心(たえんだいじょうじゅうしん)

慈悲の心をおこして人々を救済するとの大乗仏教の精神まで到達しつつも、現象世界は心の働きによって存在するとの唯識的認識の心の状態。

第七住心:覚心不生住心(かくしんふしょうじゅうしん)

この現象世界はすべて「空」であり実体がなく、突き詰めて考察するならば生死もまた泡沫の夢の如くであるとの心の状態。

第八住心:一道無為住心(いちどうむいじゅうしん)

すべての事象は自他、主客の区別を離れていると認識する優れた心の状態。

第九住心:極無自性住心(ごくむじしょうじゅうしん)

主客の区別を離れることによってこの現象世界と真理の世界も区別なく本来同一であるとする高い心の状態。

第十住心:秘密荘厳住心(ひみつしょうごんじゅうしん)

真言宗の立場であるこの境地は第九住心までを究め、さらに戒の誓いを続け四恩の報恩行をなして自分を究め、ついには自分のこの身を仏にまで昇華させること。即身成仏の状態。

このように大師は、人の心の状態を十に分けて説き示し、私たちに一日でもはやくこころの階梯を登りつめて真言の教えによって三密妙行の修行をなし自分を究めなさいと啓蒙し、促されているのです。

修行の方法と階梯

修行の順序

真言宗の修行は、以下の順序で進められます:

  1. 懺悔(さんげ)
    これまでの過ちを悔い改め、心を清めます。
  2. 三帰(さんき)
    仏・法・僧の三宝に帰依します。
  3. 三竟(さんきょう)
    戒・定・慧の三学を学ぶことを誓います。
  4. 十善戒(じゅうぜんかい)
    十の善い行いを守ることを誓います。
  5. 発菩提心戒(ほつぼだいしんかい)
    悟りを求める心を起こします。
  6. 三昧耶戒(さんまやかい)
    我と仏と衆生は平等であると誓います。
  7. 光明真言念誦(こうみょうしんごんねんじゅ)
    光明真言を唱えます。
  8. 御宝号念誦(ごほうごうねんじゅ)
    「南無大師遍照金剛」を唱えます。

一般の方の修行

一般の方は、遍路行、報恩行を実践されることをお勧めします。小豆島八十八カ所霊場巡拝は、まさに身・口・意の三密行を実践する素晴らしい修行の機会です。

出家者の修行

出家された方は、四度加行(しどけぎょう)という本格的な修行に入ります。これは真言宗僧侶の基本となる修行で、十八道、金剛界、胎蔵界、護摩の四つの法を学びます。

四恩(しおん)

仏教では、四つの恩恵に感謝し、報恩の行いをすることが大切とされています:

1. 父母の恩 - 両親に育てられた恩

2. 国家の恩 - 国や社会の恩恵

3. 衆生の恩 - すべての生き物からの恩

4. 三宝の恩 - 仏・法・僧の教えの恩